実施日:2024年11月12日(火)
ゲスト:マルシャン・トーズ オーナー醸造家 パスカル・マルシャン氏
マルシャン・トーズ
本拠:ニュイ・サン・ジョルジュ
ポマールの名門コント・アルマンを経て、ヴージョのドメーヌ・ド・ラ・ヴージョで責任者とした働いた後、パスカル・マルシャンが独立して1982年から運営するドメーヌ&マイクロネゴス。
パスカル・マルシャン氏は、カナダのモントリオール生まれの16 歳から 21 歳まで5年間、船乗りをしていたという稀有な経歴の持ち主でもあります。
ブルゴーニュ生まれでもなければフランス人でもない彼が、ワインの最高級エリアで認められたことはまさに偉業といえるでしょう。
マルシャン氏が前回来日したのは2015年で、久しぶりの来日になります。
【マルシャン・トーズの栽培エリアについて】
マルシャン氏は、年間150万本生産。なんと60種類のワインを作っています。
約75%が赤、約25%が白。
自社畑のワインが全体の30%、残りはブルゴーニュ全域からの買いブドウでつくられたワインです。
ブルゴーニュで畑を購入するのは大変だが、最低50%くらいまで自社畑の割合を上げたいとのこと。
自社畑は1.8haで、半分はコート・ド・ニュイですが、ニュイの畑のうち多くが、ジュブレ・シャンベルタンとなっています。(ドメーヌ・モームを買収した)
また、シャンボール・ミュジニーにも小さな貴重な畑を持っており、半分の畑はコート・ド・ボーヌ。シャサーニュ・モンラッシェ、ピュリニー・モンラッシェが多いとのことです。
【マルシャン・トーズのこだわり】
① テロワールの表現
ブルゴーニュでは、中世に修道士が小さい畑でそれぞれの特徴をつかみながら造るスタイルで、様々な畑のワインを楽しんでいました。
ブルゴーニュはテラス状に、多層的な土壌が積みあがっており、村名は丘、特級・1級に関しては標高が高いところに位置しています。
ワインはそれらのテロワールを反映しますが、それぞれアイデンティティを持っており、畑の特徴をどのように汲み取っていくかが大事です。
ミュジニーはエレガント、ニュイ・サンジュルジュはパワフル、ポマールはタニック、ムルソーは丸み、ピュリニー・モンラッシェはナッティなど。
そのアイデンティティが最高に発揮されるようにつくります。
② より自然な農法
テロワールを表現するために、技術的に何かするというより天然酵母の使用やオーガニック、ビオディナミ、馬を使った耕作などにこだわっています。
化学物質は使わないが、ワインをクリーンに保ちたいという意図から、SO2を少しだけ使っています。
トラクターなどの機械は、土壌を固くしてしまうため使わず、やわらかい土にこだわっています。
耕作には馬を使う
特にプルミエやグランクリュは、もろい粘土質土壌なので絶対にトラックをいれてはいけません。
畑は密植度が高く、1メートルおきぐらい。キャノピーマネジメントは全て手作業で行っています。
手で剪定等の作業をすることで、より正確にブドウの位置や畑の情報を把握することができます。
ビオディナミカレンダーを使い、月の満ち欠けに合わせて畑・セラーでの作業に適応している日は、根、花、果実、葉の4つのカテゴリで、果実の日に試飲すると良いとのことです。
【ヴィンテージについて】
2011-16年は厳しい年が続きました。
2017年から、やっといい果実が収穫されて、飲みやすい、親しみやすいワインができました。
今まで暖かかった年は2018年、2019年、2020年、2022年、2023年で、年によっての違いに適応していく必要があるが、ワインのクオリティは毎年向上しているとのことです。
近年のヴィンテージについては、以下のとおりです。
・2021ヴィンテージ
春の霜害によって、ブドウの収量が少なかった
涼しい年。スタイルが22、23とは違ってエレガント
・2022、2023年ヴィンテージ
ともに素晴らしい収穫(ビッグ・ヴィンテージ)
量、クオリティとも今までで最高レベル
・2024ヴィンテージ
夏に雨が多く、カビが蔓延した。化学的な農薬を使用したらもっと収穫できたが、妥協したくなかった、化学物質を使用しないという方針を変えたくなかった
2024年は難しく、収量は少ないが、クオリティは良好
ビオ・ディナミ カレンダー
【ワックス(蝋)キャップ】の使用
2021年ヴィンテージからすべてがワックス(蝋)のキャップになります。
リサイクルしやすく、見栄えも良く、扱いやすいとの考えからです。
【ブランドについて】
今までは、ドメーヌものは:ドメーヌ・トーズ ネゴシアンもの:マルシャン・トーズ としていましたが、ドメーヌ・トーズという表記をなくし、ドメーヌものはVigne de la famille Tawseと記載が出るようになります。
テイスティング
今回は、スタンダードな3種類のワインをテイスティングしました。
① ブルゴーニュシャルドネ 2021
ブドウはムルソーの麓の3つの平野からがメイン。
サヴィニ・レ・ボーヌ、コート・ド・ボーヌからも果実味を出したシンプルな味わいにしたいと考えている
新鮮さを維持して、重すぎないスタイルにする
フードフレンドリーなワインにしたい(ムルソーなどのようなバターっぽいスタイルにはしたくない。)
収穫は早く、8月26日から始まった。2024年は9月20、21日ごろだった
80年代半ばくらいから9月⇒8月と徐々に収穫が早まっている
1983年、85年、2003年くらいにはあったが今までこんなに早いことはなかった
すぐにクラッシュして、澱と一緒にアルコール発酵を行う。アルコール発酵後、澱は沈殿させてそのまま放置
バトナージュをしないことでフレッシュネスを得る
澱をどう扱うかによってアロマがかなり変わる(澱を混ぜすぎると良くないと考えている)
11~11ヵ月半熟成したあと、澱引き、ボトリングを行う
② ブルゴーニュ コート・ドール・ピノノワール 2021
9700本/年(ボトルにナンバリングしてあり生産量がわかる)
ニュイサンジョルジュの南の方の平野
コート・ドール、コート・ド・ボーヌ
ジュヴレ・シャンベルタン
ラドワ、ピュリニーの下の方
ほぼ除梗している(90%)
ふたの空いたタンクの中で醸造した後フードル(大樽)で熟成
新樽は使わず、清澄している。フレッシュな味わい
③ ブルゴーニュ・ピノノワール・47N 2020年
16,000本/年
暖かい年だったので通常よりだいぶ色が濃い
通常よりアルコール高いが、酸が高かったため、アルコールが高い分を補っている
カリフォルニアのピノ・ノワールでは絶対にこのようにはならない
北緯47度、国道74号線が通っているのでそのreverseから名付けた名前
ニュイサンジョルジュの南、80年くらいの古木
マルサネ、コート・ド・ニュイ ヴィラージュ
サヴィニの1級、ボーヌ1級のブドウもブレンドしているが、年によって違う
20%全房発酵。パーセルごとに醸造してからブレンドして熟成
14ヵ月樽熟成。新樽なし、1-2年の樽、100%樽熟成
もっと生産量を増やしたいが、クオリティを保つためにはこれ以上増やすことは難しい
今回テイスティングしたワインは、価格も手ごろなスタンダードクラスですが、
非常に良い地域の畑から集められたブドウのため、素晴らしい味わいでした。
マルシャン・トーズは、家族経営のワイナリーで、現在息子さんたちが一緒に働いていますが、より責任ある業務を任せるようにしたいと考えているようです。
長男ポールエメさんは畑・醸造に専門性があり、次男オディロンさんはワイナリーの説明などお客様へのサービスを担当しています。
今後はクオリティを上げつつ、生産ボリュームを上げていくことを目指し、2021年ヴィンテージは難しいですが、2022年、23年は量を増やしていく予定とのことです。
チャレンジ精神に富み、常にブルゴーニュワインの未来を見据えている、パスカル・マルシャンさん。
これからも素晴らしいワインに期待です。